神奈川文芸賞2024受賞作品

 神奈川新聞社主催の「神奈川文芸賞2024」の入賞作品が決まった。大賞は、短編小説部門が見坂卓郎さん(41)=川崎市中原区=の「ターンオーバー」、現代詩部門が小沼智佳さん(21)=京都市=の「月餅」。準大賞は一覧の通り。審査は小説家の柚木麻子さん、詩人の大崎清夏さんが務めた。
 U-25部門は中川泰明さん(15)=平塚市=の「オリカサナル」が最優秀賞と三菱地所横浜支店賞をダブル受賞。最優秀賞の審査は県立神奈川近代文学館スタッフ、神奈川新聞が運営する読者向けの友の会「かなとも」会員らが行った。
 応募数は小説が221編、現代詩が378編、U-25が98編。受賞作品と審査員の講評は1月9日以降の神奈川新聞本紙と公式サイトで順次掲載する。
 表彰式と講評会は3月15日に開催。横浜市中区のニュースパーク(日本新聞博物館)を会場に、関係者のみで行う。内容は翌日以降の神奈川新聞本紙と公式サイトで紹介予定。

短編小説部門受賞作品

大賞

「ターンオーバー」見坂 卓郎

見坂 卓郎 /みさか・たくろう 1983年生まれ、山口県出身。大阪大学大学院修了。鉄鋼メーカー勤務。

コメント

このたびは私の作品を大賞に選出いただき、誠にありがとうございます。『ターンオーバー』は、あえて具体的なプロットを定めず、兄妹たちに自由に動き回ってもらいながら書きました。読んでくださった皆様に少しでも元気を与えられるような作品になっていたら幸いです。審査員の皆様、関係者の方々、職場の先輩後輩、そしていつも支えてくれた家族たちに心から感謝いたします。ありがとうございました。

準大賞

「Misty」奥間 空

奥間 空 /おくま・そら 1992年生まれ、沖縄県嘉手納町出身。昭和音楽大学短期大学部中退。美術館スタッフ。

準大賞

「コキノキコ」二俣 吉秀

二俣 吉秀 /ふたまた・よしひで  1955年生まれ、富山県出身。日本大学芸術学部美術学科卒。革職人(工芸家)。

審査員のコメント

神奈川県は物語の舞台として完璧です。山があって泳げる海があって、その遠くでは灯台が光り、神様たちの伝説があり、丘から見渡せばロマンティックな港町が広がっています。街を歩くと、いくらでも逸話が残っていて、しかもその多くが戦後のことだったりします。よく覚えている人が今も元気だから、取材のしがいがあります。小説のアイテムにふさわしい美味しいものや古い建物に溢れています。なによりも、神奈川県は、どの国にも所属していないような、異世界の雰囲気まで纏っているのです。
 私自身、二作ほど書いたことがあるのでわかるのですが、実はこの神奈川を舞台に物語を作るのはとても難しい。というのも町そのものが物語として完璧なので、それに飲み込まれないとなると、プロットを練ったり、複雑な心理描写を用意しないといけなくなります。取材や調べ物で得たエピソードを、あれも使いたいこれも使いたい、と欲張りたくなるし、そもそも皆さんよくご存知と思いますが、取材という名目の町歩きが楽しくて、なかなか執筆にたどりつけません。なによりも素敵な景色や海風の描写には枚数をさきたくなるというもの。それが30枚という短さなんて、一応プロである私ですら、逃げ出したくなる難易度です。
 私はライバルという言葉はあんまり好きではないのですが、この賞に応募した皆さまの一番のライバルは、神奈川県そのものと言えるのではないでしょうか。
 今回の応募作品はいずれもレベルが高く、読んでいて本当に楽しかったです。私として一番嬉しかったのがこれまで透明化されてきた存在を真ん中にもってきてくれた作者さんがとても多かったことです。小説の力は社会を変えると信じてますので、勇気づけられたし、今この視点で物語をかける方は、文学の世界を大きく変えて行ってくれると思います。あと登場人物の容姿に優劣をつける視点を持ち込む方がほとんどいないし、容姿そのものに関する言及自体を避けている方もいて、そこも新しさを感じ、学びになりました。読みながら、神奈川県の伝説や地理にも詳しくなれました。次に歩く時は、また違った視点で町を見つめることができそうです。
 選考には大変悩みましたが、時間をかけて私なりの基準を見つけました。物語設定として完璧すぎる神奈川県に負けていない方、神奈川県の魅力を伝えるにとどまらず、見事自分の物語に町を寄り添わせ、すっぽり包んでいる方を選ばせていただきました。この三作品の面白さは、作者さんの体の内側に描きたい大きな世界がすでにあるという証明だと思います。
 ご受賞心よりおめでとう御座います。

柚木麻子

柚木麻子

現代詩部門受賞作品

大賞

「月餅」小沼 智佳

小沼 智佳 /こぬま・ともか 2003年生まれ、東京都出身。京都市立芸術大学在学。
自身をみつめるためにテキストを用いた作品制作を模索している。

コメント

中秋の名月を我が家では大事にしており、時期になると中華街に出掛け月餅を買うイベントがありました。私は所謂ハーフですが日本育ち、話せるというほど中国語を話せません。アイデンティティを取り零してしまったような不思議な引け目を覚えたまま二十歳になりました。大学生になって顧みることを覚えたときに「母と月餅を買った」ただそれだけのことが地図によって図解されて、自分の現在地なんてものを空想してしまいます。

準大賞

「引き出しのなかの江の島」国広 知恵子

国広 知恵子(本名・国広智恵子)/くにひろ・ちえこ 1962年生まれ、北海道小樽市出身。創価大学通信教育部卒。会社員。

審査員のコメント

大賞には中華街から山下公園へ至る散歩の風景を描いた小沼智佳さんの「月餅」を、準大賞には思い出の中の江ノ島を描いた国広知恵子さんの「引き出しのなかの江の島」を選びました。
 応募作の中には、書き手自身にとっての記憶から題材を得て大切に書かれたことがわかる作品が多くあり、読んでいて心が温かくなりました。受賞二作は、真摯な態度で選ばれた言葉のひとつひとつが粒立っていることに加え、イメージの結びつきの鮮やかさにも感銘を受けました。
 描かれた風景の外側にも、誰かが、何かが、生きていること。その繋がりの中に私たちがいること。受賞作に限らず、そのことを思いださせてくれる作品は、読み手の想像や思考を自然と広い視野へ導いてくれる、いい詩だと思います。篠谷勇生さんの「ひまわり」は、座間のひまわり畑の花の数を人口あたりの数に割り、町の人々みんながひまわりに見守られているような嬉しい詩でした。こどもの国の思い出を振り返りながら今昔の戦争を憂う大坪覚さんの「残響」には、淡々としたリズムの中に切実さがこもっていました。三好渚さんの「握手の聖地」はパシフィコ横浜のアイドルの握手会を描いて、現在を生きる世代のもつ別の切実さを垣間見せてくれました。
 悩みながら子育てしている若い母親の視点(村井由紀子さん「きみへのくだもの」)、チャイルドシートから見えた景色の点描(古川美凪さん「自転車に乗って」)、母の見知らぬ一面を覗きみた驚き(藤川六十一さん「観音崎灯台」)、夢の国としての南林間(ゆめかさん「夢の国」)、海老名サービスエリアでの出会い(書完戒さん「岐路」)、帰ってきて初めて安堵する介護の道のり(新倉久恵さん「大きな橋を渡って」)……。心に残った詩がたくさんあります。生活の詩がもっと書かれていいはずだと思ってきた私にとっては、これらの作品を読ませていただけたことそれ自体が、大きな喜びでした。

大崎清夏

大崎清夏

U-25部門受賞作品

最優秀賞三菱地所横浜支店賞

「オリカサナル」中川 泰明

中川 泰明 /なかがわ・やすあき 2009年生まれ、平塚市出身。聖光学院中学校3年生。

コメント

僕にできたのは、『祖父と孫の物語』を書くことでした。一年程前、祖父の末期がんが見つかったのです。五十稿近くは書き直し、何とか出来上がった時には、祖父はかなり衰弱していました。それでも、ベッドから懸命に起き上がって、自分の力で読みたいと頑張ってくれましたが、最後まで読み終わらぬまま、旅立ちました。受賞を知り、最初に思い浮かんだのは祖父の笑顔。賞を頂き、とても嬉しかったです。本当に有難うございました。

審査員のコメント

今回も第一回に続き神奈川新聞社様よりお声がけいただき、U-25部門に協賛します。
 今回の三題噺である「みらい」、「空」、「扉」という言葉には、期待と不安が入り混じります。
 三菱地所が力を入れて街づくりを行ってきた「みなとみらい地区」にちなみ「みらい」という言葉をキーワード設定させていただき、物質文明の真っ只中を生きる現代の若者たちが、これらを題材にどのような世界を小説に描くのか、興味深く読み進めさせていただきました。
 三つの言葉の意味は誰でもわかるシンプルな単語です。それを感じさせない、新しい視点の作品ばかりで一つとして似た作品はありませんでした。表現、描写、構成、どれを取っても素晴らしい作品を読むことができ、若い感性に刺激をもらえたことに感謝いたします。
 一つの作品を選定することが心苦しいですが、中でも皆様に読んでいただきたい一作品を僭越ながら選定させていただいております。
 今回皆様の豊かな発想と創作意欲に触れることができ、私たちも大変感銘を受けております。三菱地所も「みらい」に向かって一層邁進し、今後も神奈川文芸賞を応援してまいります。

三菱地所株式会社 横浜支店長細野徳重

挿絵

森文香(1年)「Misty」

短編小説部門とU-25部門の受賞作品に添える挿絵は、前回に続き、県立相模原弥栄高校美術部が担当します。同部は全日本学生美術展で、2021年から24年まで4年連続で、団体部門の最高賞「全日本学生美術会賞」を受賞。22年には神奈川文化賞・未来賞を受賞しています。約150人の部員が腕を磨き、各種イラストコンクールでも優秀な成績を残しています。

小川ゆいり(1年)「ターンオーバー」

鈴木美古都(1年)「Misty」

横山莉咲(1年)「コキノキコ」

滝澤志保(2年)「オリカサナル」

鈴木絵梨奈(2年)「ターンオーバー」

佐々木千花(2年)「ターンオーバー」

馬場明育音(2年)「ターンオーバー」

小林美月(1年)「ターンオーバー」

清水結音(1年)「ターンオーバー」

佐藤帆南(2年)「ターンオーバー」

佐々木美宇(1年)「Misty」

朝重紬(1年) 「Misty」

大橋由奈(2年)「Misty」

安積幸也(1年)「Misty」

古茂田あかり(1年)「Misty」

飯村珠実(1年)「Misty」

日辻由佳(1年)「Misty」

丸山海羽(2年)「コキノキコ」

篠原汲子(1年)「コキノキコ」

青山彩夏(1年)「コキノキコ」

山本菜乃(1年)「コキノキコ」

秋生枇音(1年)「コキノキコ」

富来美帆(1年)「コキノキコ」

瀬田真奈美(2年)「オリカサナル」

渋谷万桜(1年)「オリカサナル」

野口さやか(3年)「オリカサナル」

小宅奏菜(1年)「オリカサナル」

木嶋史甫子(1年)「オリカサナル」

小黒澤梨璃子(1年)「オリカサナル」

細川心美(2年)「オリカサナル」